経営者が使う思考法に、「抽象的な思考」があります。
これは僕たちも普通に使っている思考法なのですが、この思考に慣れた人は「1を聞いて10を知る」ことができるようになります。
どういうことか、以下でお伝えしていきます。
まず僕らは、日頃、具体的なものを求めています。
政治家の公約が「少子化に歯止めをかけるためにしっかりとした政策を実行します」だったら、「具体的には何をやるねん」となります。
会社で数字が上がらなくて販売見込み先を出すときに、「ニーズのある先に訪問します」と言ったら、上司に「具体的にはどこ行くんだよ」と言われます。
こんな感じで僕らは、日々、具体的なものを求めて(求められて)生きています。
具体例を出してもらった方がわかりやすいからです。
そうやって具体化することには僕らは慣れていますが、逆向きの抽象化には不慣れです。
抽象化は具体化を逆向きにすることです。
先の例で言えば、
「待機児童をゼロにする」「出会いの場として街コンを開催する」などの具体的な政策を抽象化すると「少子化対策」です。
社内システムを販売するのに、「人員が足りないA社に訪問する」「紙媒体の管理がメインのB社に訪問する」を抽象化すると、「ニーズのある先に訪問する」です。
人員が足りないからシステムで自動化しましょうという提案と、紙でやってると効率悪いからIT化しましょうという提案は全く別のもののように思えますが、抽象化すれば「その会社の課題を解決する」という点で「一緒のこと」をやっていると言えます。
つまり抽象化とは、「これとこれ一緒だよね」と言える能力のことです。これができる人は、いろんな個別事象を一般化してまとめて扱うことができます。
この能力を持っていると、最初に言ったような「1を聞いて10を知る」ことができるようになります。
例えばさっきのシステム販売について、「A社に訪問してこい」と言われたときに、「ああ、人員不足の先に販売してこいってことね」と抽象概念を理解して、A社同様に人員不足のC社やD社に勝手に行って成約を取ってくることができます。
次に「B社に行ってこい」と言われたら、「なるほど、紙で管理したり古い方法を取っている会社に行けってことね」と指示の抽象概念(=本質)を理解して、同じような先を見つけてこれます。
つまり1を聞いたら一旦抽象化し、それに共通する別の1をたくさん見つけてこれるようになるので、1を聞いて10でも100でも知れるようになる、というわけです。
もう一つ具体例を。
フェラーリという会社があります。
この会社は車のメーカーですが、実は車のフェラーリを販売することが収益のメインではありません。
何で儲けているかというと、フェラーリのロゴの使用権などで儲けています。
フェラーリを見て、トヨタやホンダのような自動車メーカーをイメージすると本質を見誤ります。むしろディズニーのようなライセンスビジネスです。
フェラーリという「1」を見て、構造を理解して、「これディズニーと一緒じゃね」という思考ができるようになる。
「本質的には何」「要は何」というのが抽象化です。
物事の本質を理解する力があれば「1を聞いて10を知る」ことができ、それができる人は少ないため、思考力が圧倒的なレベルになります。
また、抽象思考ができる人同士であればコミュニケーションが円滑になります。
上司が「A社に行ってきて」と言ったら部下はその理由(人員が足りないからウチのシステムが売れるんじゃないか)を瞬時に理解して、「わかりました」とだけ返事をする。
これが理想的なコミュニケーションではないでしょうか。
ここで部下が上司の指示を抽象化できなかったら、部下は「A社に行ってきて」と言われて「わかりました」と言ってA社に行きますが、なんで行くのかわからず、ただ訪問して手ぶらで帰ってくることになり、上司は「使えないやつ」、部下は「お前が行けって言ったんだろうが」となってしまいます。
これはどっちが悪いということもないんですが(個人的には部下にどのくらい具体的な指示をすれば良いかを見誤った上司が悪いと思いますが)、要は大事なのはお互いが適切な抽象レベルで話をするってことです。
抽象化は何も難しいものではなく、僕らも普段からふつうに使っている能力です。
歩き疲れて「カフェに行こう」というのもスタバやドトールという個別を抽象化した言い方ですし、「肉食べたい」とか、「1+1=2」とか、僕らはめちゃくちゃ抽象概念を使っています。
ただ普段から意識していないので、日常の中で意識して抽象化をするようにし、他のことと共通していないか?を考えるようにすれば、抽象化の力がどんどん身についてきます。
抽象と具体を行ったり来たりできるようになれば、純粋に頭良くなります。日常生活でも、サラリーマン生活でも、自分のビジネスをする上でも、めちゃめちゃ役立ちます。
せっかく人間にだけ与えられた「抽象化」という能力、ぜひ身につけてガンガン使っていきましょう。